子どもの頃
両親の実家である
田舎に行くのが楽しみだった。

田園風景に心が癒される
母方の田舎に向かう
そこに近づくにつれ
車窓から見える景色に山が多くなる。
異世界に
今から行くことを僕に教えてくれる。
ワクワクが始まるのだ。
彼らに出会える!
そう

カブトムシ!
わが家の近くでは無理だ。
数回捜索したことがある。
朝5時に起きて山に行く。
仕掛けたエサの場所に
捕まえられた試しがない。
しかし、ここでは

なんと!
街灯の下に数匹いるのだ。
簡単に手に入れることができる。
いつもと違う味噌汁の味
ボットン便所
薪で沸かしたお風呂
数日しかいないからこそ
楽しめる体験が待っていた!
富士山と茶畑が楽しみ
父の生家に行くには
これを利用する。

新幹線!
いつも見ているものとは
比べ物にならないくらい
長~~~いホーム。
そこに彼らがやってくる。
カッコいい
車内清掃
早く終われ~~~と祈る!
車内に入ると
独特のニオイが僕を迎えてくれる。
車窓から見える

富士山!
そして
これが見えてくると

田舎に近づいたことを実感するのだ!
茶畑が目に入るようになるとね。
新幹線に乗るには?
子どもの僕にとっては
新幹線に乗る手続きは
ものすごく煩雑なものに感じた。
なぜ
自動券売機ではなく、ここで買うのか?

そこでの父の会話を聞いていても
何を話しているのか分からない。
父から渡された
新幹線の切符を見てあれ?と思う。
池袋駅で買ったのに
東京都区内~〇〇と印字されている
やっぱり新幹線の切符はスゲー!
僕はこの時もアホだった。
改札口という関所

当時は有人改札だった。
駅員さんが
不正がないか目を光らせている。
切符を切る改札鋏が
軽快なリズムを刻んでいる。
ただ
新幹線の改札口を通る時は
ある種の緊張感が伴う。
ここでは改札鋏ではなく
日付入りのスタンプが切符に押される。
父から指示が飛ぶ!
「いいか!
ここで出すのは特急券だけだぞ!」
やっぱり
新幹線ってスゴイ乗り物なんだな~~
バカな僕はそう思っていた。
成長するにつれ
田舎に行くのが面倒になる
なんかそうなってしまった。
羞恥心が芽生え始めた僕。
何をしても
従兄弟と遊ぶのが楽しかったのに。
いつしか
顔を合わせても気まずい感じに・・・
やがて
祖父母は亡くなってしまった。
すると
もう田舎に行く機会はほぼない。
多分
僕が人生で成功していたら
自慢にしに行きたくなっただろう。
でも
残念ながらそうではない。
結婚もしていない。
望んだ仕事に就いたわけでもない。
自分が輝いていないのを自覚している。
僕が父のために切符を買う
法事のために
久しぶりに田舎に行く。

父と母と一緒に
新幹線に乗ることになった。
もちろん
新幹線の切符を
購入しなければならない。
池袋駅で父が言う

僕は余裕で
一人で新幹線に乗れるようになった。
昔は難しいと思っていたけど
今は自動券売機で買えるし
めちゃくちゃ簡単なのだ!
僕が父に新幹線の切符を渡す。
子どもの頃とは逆だ・・・
でも
誇らしい気分には全くなれなかった。
なんか寂しさを感じてしまったのだ。
衝撃の光景が僕の隣で!
茶畑が見え始めた。
父が
二つ折りのガラケーを取り出す。
そろそろ着くことを
メールで連絡するのかな??
僕はそう思った。
・・・でも

・
・
・
?

思いっきり通話している!
話すんだったら
なぜデッキに行かないのか!
そして
予想通りの展開が
僕の隣の席で・・・
声がデカい!
耳が遠くなっているからそうなる。
恥ずかしいと言うより
また寂しさを感じてしまった。
父から
羞恥心がなくなっていく…
時々見る
腹立たしい光景を思い出す。
電車の中でお年寄りの行動。
マナーモードにしていない。
大きな声で通話する。
同じようなことを
今まさに自分の父親がやっている。
このまま
父は認知症になってしまうのかな・・・
探し物は何ですか?
見つけにくいものですか?
僕が実家に帰ってきた。
父を
自転車保険に加入させるために。
ネットで簡単に手続きは終わる。
プリンターで
関係書類を印刷し説明する。
父はそれを
玉手箱のような箱に大事にしまった。
夕食時
父が必死で何かを探している。
僕はあなたが
何を見つけようとしているか
知っている。
その場所もね。
ズバリ!あなたは
自転車保険の書類を探している。
でも
自分で見つけるんだ!オヤジよ。
以前だったら
僕はすぐに教えていた。
これからは簡単には助けないよ。
オヤジの能をサボらせないぞ!
僕はあなたを
絶対に認知症にはさせない!
そう決めた。
それができるか分からない。
これが
父のためになるか分からない。
認知症になるメリットも
もしかしたらあるかもしれない。
死への恐怖が和らぐとか・・・
これは自分本位の考えなのだろう。
僕にとって
父は新幹線の切符を買うことができる
全知全能の神であった。
畏れの対象であった。
もう、そんな父でなくてもいい。
ただ
認知症になった父を僕は見たくないのだ。
第六六段
作:帰ってきた兼好法師
Twitter:@Kenkohoshi_R
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